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京都地方裁判所 昭和60年(わ)881号 判決

本籍

京都府向日市鶏冠井町堀ノ内七〇番地

住居

同町沢ノ西一七番地の一

農業

中嶋純次

昭和七年三月二一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官關本倫敬出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役四月及び罰金四〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金八〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罰となるべき事実)

被告人は、自己の所有する京都市伏見区久我西出町一一番地の三二ほか四筆の田を昭和五八年一〇月六日及び同年一二月五日の二回にわたり総額二億四七〇七万二八四〇円で売却譲渡したことによる譲渡所得を申告するに際し、報酬を得て虚偽の申告書を作成したうえ申告手続を代行していた全日本同和会京都府・市連合会を利用してその所得税を免れようと企て、元同連合会乙訓支部長今井正義、辻逸朗及び右今井を通じて同連合会会長鈴木元動丸、同連合会事務局長長谷部純夫、同連合会事務局次長渡守秀治らと順次共謀のうえ、自己の実際の昭和五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は一億二一〇万二〇八二円、総合課税の総所得(農業所得、不動産所得、配当所得、利子所得、雑所得)金額は二〇二万五四八三円で、これに対する所得税額は二六八四万九六〇〇円であるにもかかわらず、昭和五九年三月九日、同市右京区西院上花田町一〇番地の一所在所轄右京税務署において、同署長に対し、全くそのような事実はないのに、株式会社ワールドが有限会社同和産業から借りていた一億二〇〇〇万円の債務について自己が連帯保証人となっていたことから右連帯保証債務を履行するために右不動産を譲渡し、その譲渡収入で昭和五八年一二月一〇日に九一〇〇万円を弁済したものの、右ワールドに対する求償不能により同額の損害を被った旨仮装するなどしたうえ、自己の昭和五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は一一一〇万二〇八二円、総合課税の総所得金額は二〇二万五四八三円で、これに対する所得税額は二二九万一九〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、右申告税額と右の正規の所得税二六八四万九六〇〇円との差額二四五五万七〇〇〇円を、不正の行為により免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書五通(昭和六〇年七月二五日付、同月二九日付、同月三一日付、同年八月一日付、同月三日付)

一  辻逸朗(七通、昭和六〇年七月二〇日付、同月二五日付、同月二九日付、同月三〇日付、同年八月二日付、同月三日付、同月一五日付、各謄本)、今井正義(五通、各謄本)、長谷部純夫(謄本)、鈴木元動丸(二通、各謄本)、及び牧良次(二通)の検察官に対する各供述調書

一  右京税務署長作成の証明書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書

一  大蔵事務官作成の報告書謄本

(法令の適用)

罰条 刑法六〇条、所得税法二三八条一項(懲役刑と罰金刑を併科)

宣告刑 懲役四月及び罰金四〇〇万円

労役場留置 罰金刑につき刑法一八条(金八〇〇〇円を一日に換算した期間)

執行猶予 懲役刑につき刑法二五条一項(二年間)

(量刑の事情)

本件は、被告人が自己の所得税の申告に際し、脱税請負を業としていた全日本同和会京都府・市連合会を利用して、二四五五万円余の所得税を免れ、ほ脱率も九〇パーセントを超えたという事案であって、被告人が納税の公平を侵し、誠実な納税者の納税意欲を害した程度は著しいので、被告人の刑責は重いというべきである。

しかしながら、虚偽債務を仮装しての脱税が、全日本同和会京都府・市連合会の者らのいうように税務署の指導に基づくものとは直ちには認められないにしても(したがって弁護人のいうように税務当局自体が脱税の共犯者とまではいいえないにしても)、同連合会による脱税が相当期間に亘り繰り返し行われていたのに、税務当局がこれに適切な対応をしなかった点には、税務当局の同和団体に対する弱腰あるいは職務怠慢があったと考えざるをえないのであって、そのためこれに便乗して脱税しようという被告人の本件犯行を招いたとの一面があり、その意味では、税務当局の右のような姿勢、態度にも本件の責任の一端があるというべきところ、被告人は同連合会に渡した一六八〇円のほとんどを脱税の報酬としてとられ、右のほ脱率九〇パーセント以上というのもその報酬が極めて多かった結果であり、そのため被告人は多額の重加税や延滞税を含め、正規税額のほとんどをもう一度納めなおす羽目におち入っており、脱税が経済的には全く引きあわない犯罪であることも身にしみて認識したと考えられるうえ、被告人は申告前に一度は同連合会を利用しての脱税をやめようとしたが、共犯者らから強く実行を迫られ、すでに先の一六八〇万円を手渡していたこともあって本件を犯すに至った事情も認められるので、これらの点に、被告人にはこれまで前科前歴のないことや反省の情も顕著であることなどをも考慮して量刑した。

よって、主文のとおり判決する。

昭和六〇年一二月四日

(裁判官 森岡安廣)

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